リキュールとUFJとみずほ
みずほは別に取り立てて酒に強い方ではないと思う、だからといって弱いわけでもなく、無理のある飲酒をしなければ淡々と飲んでいられる方だ。その彼がUFJのマンションで飲むと言うこともないことではなくて、むしろ彼はそういう傾向が強かった。それほど自分を信頼しないでいて欲しいと思う。自分の部屋に飲みに来る、自分の好きな人に、何もしないでいられるほどUFJはできた人間ではない。
みずほは見た目に反して甘い酒を好んだ。だからUFJの部屋には彼が来なければ栓の開くこともない甘いリキュールが取りそろえられていた。珍しいものではなく、どこにでもあるものをみずほは好いた。彼のそう言うところは妙に可愛くてUFJは好きだった。
「どうぞ」
「ありがとう」
カウンターキッチン越しに差し出された酒を彼はすっと引き寄せた。UFJは自分のぶんを確保して彼の隣へ。ダイニングテーブルにはちょっとしたつまみ、彼の好むこのなんと言うことのない日常を自分がどうしたいのかUFJにはわかるようでわからなかった。ぐちゃぐちゃにしてやりたいかといえばそんなことはなくて、彼がそのままでありたいと望んでいるならば無理に彼を手にしなくても良いとすら思っている。
もっと事業を拡大したい、自分を利用してくれる顧客に還元してやりたいと思うと同時、UFJはみずほというのがどれだけ自分にとって越えられない、越えたくない壁なのかを把握していた。彼だけは特別だから、といって、理解されないのは分かっているけれども。それでもUFJにとって負ける相手がいるとすればそれはみずほで、それに勝ちたいかと言えばそんなことはあり得ない。
冷蔵庫に作り置いておいた鶏のマリネをつつく彼の、顎を捉えてふっとキスをした。驚いた表情こそすれ、抵抗なんて一切ない。あったこともない。彼が許してくれているかと言えば、けれどもそんな気もしない。抵抗がない代わり、許諾も一切ない。
「あなたは」
丁寧な言葉を選ぶのは、いつもそうしないと、彼に飲まれてしまう気がするから。
「オレをどれだけ誑かせば、気が済みますか」
「誑かした覚えなどない」
帰ってくる言葉は硬質なのに、触れるキスはやわらかい。
どうすれば彼のなかを暴けるのか、彼を傷つけずにいられるのか。
相反する欲望を振り切るしかない、そう把握しているから、UFJは黙ってみずほから手を外し、自分もマリネに箸を付けるに留めておいた。