「あら京浜東北、今日開業日だって?」
 ほらきた。
 京浜東北はにっこりと、山陽の言葉を受け止めて笑った。嘘ではないだけに逃げられない。報告書を上官の部屋に持っていくのは京浜東北の仕事だし、その中で今日の日付について東海道(この場合、たまたま席を外している兄の方ではなく、弟の方だ)が何かぼろを出してしまっていることなど織り込み済みだ。
「山陽上官がご存じだなんて、恐れ入ります」
「いいのいいの気にするなって」
 嫌みを嫌みとも聞き入れないような態度で、山陽は笑って見せた。確かにこの人の広いふところは惚れ込みたくなる心境も分からないでもない。とりわけ西に行けば、彼は在来からの信頼も厚いという。気持ちは分からないでもない。わからないでもないが、自分がそのからかいの対象になるとなれば話は別である。
 はーいと軽い声を受けて京浜東北の差し出した書類を受け取ると、山陽は、それで、これ、なんて言いながら、黄色いポリエチレンの袋を取り出した。
 京浜東北だってわかる。派手な電飾と圧迫感のある陳列でおなじみの、ディスカウントショップなのかバラエティショップなのかわからない、あの青いペンギンのキャラクターをぶらさげた店だ。
「はい、おめでとう」
「あ、りがとうございます」
 全力で警戒しながら袋を受け取った。中身はさらに、外から見えないように紙袋で包まれていた。なんだろう、と京浜東北が首を傾げていると、山陽がにやつきながら、開けてみ、なんて言ってくる。そうやって外から見えないような包装が施してあると言うこと、それから、この山陽の笑顔。
 間違いない、セクハラのたぐいだ。
 ここで折れては、自分ではなくて東海道(くれぐれも、と京浜東北は思うが、兄ではなく弟のほうである)に要らない火の粉がかかるのも目に見えている。仕方がないので、がさごそ、という音を立てながら紙袋を開封する。
 ある意味予想ができていた、派手なカラーリングのなされたプラスチックのかたまりがこちらを見ていた。ご丁寧にオレンジ色で、ラメの入ったそれはてかてかと、逞しく立ち上がった何かを模してこちらを見ている。
(ああ、まぁそうくるよね)
 京浜東北はため息を押し殺す。
「生活のバリエーションにさぁ」
 山陽のにやついた顔は、たぶん、京浜東北が真っ赤になってそれを突き返すなり、うつむくなりすることを期待しているのだろうとはわかっていた。なので、京浜東北は、なるべくゆっくりと笑うと、こくりと一度頷いて目を細めた。
「ありがとうございます……使わせていただきますね」
 こういう顔をすると東海道が弱いという顔をして。
 山陽が一度目を丸めて、おやおや、と少しぎょっとして笑ったから、京浜東北は満足した。けれども、結局のところ、こう言われてしまっては何も言えない。
「で、それ、どっちがどう使うの」
「知りたいんですか」
 うまい切り返しをしたから山陽は苦笑いでごまかしてくれたけれども、まさか自分が使われたいなんて言えない、に、決まっているではないか。

刺激的な性活を誕生日のネタにしてすいません。
20091220