03 山崎
ずるり,突然打ち付けられていた山陽が中から出ていく。
「あ……」
「ごめん上越,東海道が呼んでるから」
呼んでるからじゃないよこんなに好きにしといて,と思ったけれど,いそいそと床に降りて,ひどいことになっている東海道が伸ばした手を受け止めるその様は羨ましいな,と思った。目の前の男がそんなことをしてくれるなんてつゆほども期待していないけれど。
代わりにキスがほどけて二人の間に糸が垂れる。ちらり,と見下ろすと,足を開いて座った山陽の膝の上で東海道が顔をぐしゃぐしゃにしている。東海道の頭を撫でながら山陽が言い出したことにとりあえず呆れておいた。
「東海道,いい子だから,きもちよくなるとこ見せて?」
「あ……さんよ……」
言いながら東海道の手がおずおずと自分の性器に伸びる。すっかり飼い慣らされて,さっきあんだけイカせてあげたのに,と思ったけれど,わざわざ口にはしなかった。
口にする余裕もないし,そもそも口に出来ないし。
四つん這いで目の前の膝立ちを見上げながら,思うことは偏に後ろの喪失感だった。混乱していて大きいのか小さいのかもよくわからなかったし,大小の問題ではなく彼は上手かったので,そうしたら中がうずいて仕方がない。
東北はどう動くだろうか,と思った。欲しくて東北が動かないとき,普段ならばもっと積極的に上に乗ったりしてあげられるけれど,山陽に翻弄された体はさすがにだいぶ言うことを聞かなくなっていた。
東北の腕が伸びる。すっとのばされたその先は上越の背を越えて,黒い何かを掴んだ。
「ああっ」
「物欲しげな顔をしているから気づいた。すまんな,尾を忘れていた」
「そ……じゃ,なく,って」
「東海道もしっぽ触ってあげるよ」
「やぁっ,やん」
自分で自分の性器を弄っている東海道から生えている尾を,山陽はさっき上越にしたように銜え込む。さっき出したばかりで勃起するなんて東海道ったら絶倫,と言おうかと迷ったけれど,そんな余裕はなかった。四つん這いから肘が崩れて,腰だけ高く浮かせた状態で上越は啼くしかない。
「本当に獣のようなナリだな」
「うるっさいよっ……じゃあ君は獣姦,だねっ」
それでは自分が獣だと言うことを否定できていないとはわかってはいるのだけれど,何も否定できない自分にはそれを前提にした嫌味しか言えない。しかもそんな言葉に自分の中がもっとうずく。最低だ。
「さんよ……ちょうだい」
どこでこの男はそんな言葉を覚え込ませたのだろうか。すこしだけ我に返って山陽を見下ろすけれど,上越の視線に山陽は気づかない。たぶん山陽は目の前の東海道のことしかほとんど見えていないのだ。
羨ましくなんか,ないけれど。
「も,とうほく…」
頭の上を見上げれば,上体を伸ばして尾を触っている東北と目が合う。目の奥に潜んでいる感情は,さて。
「お前も言ってみるか?」
「やああああああああっ」
東北の言った言葉をかき消すように,東海道がさっきまで自分の中にいた山陽を銜え込む。その嬌声に,後押しされたのは,間違いない。だって,自分だけこんなじらされても,つらいだけだし。
「東北だって,入れたいんでしょ」
挑発すると,肩を強く押された。背骨を痛めずに後ろに転がされて,仰向けになるべきとの意図を組んでやった自分は偉いと思う。強制的に開かれた足の付け根、ちょうど尾の生えている当たりを,東北は指で一度、円を描くように撫でた。
「にゃうん,ひゃ」
「猫のようだな」
猫のようだじゃなくて,ほんとに今日猫なんですけど。
罵倒しようとした言葉は東北にまだ握られたままの尾をさわさわとされて撃沈。そのまま尾を口に入れて,軽く噛まれた。
「やっ,にゃっ」
「東海道気持ちいい?」
「さんよ,さんよ……」
上越の短いあえぎ声の間に,二人のまぐわう声が交じる。こちらを見やる東北の目線は熱を帯びているのに,それでも上越に決定打を打たせたいらしい。尾の先から,根本から,もう,無理,と音を上げた。
せめて,意趣返しぐらいさせて欲しい。
「ご主人様、挿れて」
東北だけではなく,山陽もたぶん一旦ぎょっとして腰の動きを止めた。けれど聞こえなかったらしい東海道は,気づかなかったようで,さんよ……? と弱々しい声を上げた。山陽は何も聞こえなかったという風に抜き差しを再開する。
「……お前は可愛いな」
「ほんっとに,悪趣味だね」
握ったままの尾を離さないまま,制服を寛げただけの状態で性器をうしろに押しつけてくる東北とのやりとりは,ほんとうはすごく,興奮する。
さっき山陽に慣らされたから,後ろはひどくスムーズだった。山陽の大小はわからなかったけれども,東北のそのかたちはひどく落ち着いた。それに落ち着く自分は,どれだけ毒されているのかとは思ったけれども。
「やん,東北,いきなり……」
「黙って啼いていろ」
「矛盾,してる」
「これくらいしてもいいだろう」
いきなりの早い動きに,上越は体が付いていかない。いろいろと言ってやりたいけれど,もういいところばかりを擦られて目を開けていられない。目の前を腕で覆って,自分の声は聞かないように心がける。
「やあっ,東北、とうほく」
「どうした」
「嫉妬,した?」
すこし東北の動きがゆるんだ。腕をほどき細く目を開ける。図ったように東北の手が上越の手を捕らえ,ソファの座面に縫い付ける。柔らかな感触の尾を自分で握れば,そのせいで自分の背筋が爆ぜて,もう,なんでこんなこと,と思うしかない。もうソファの下がどうなっているのかわからなかった。ただ東海道のあえぎ声と,山陽の荒い息と,東北だけが目の前にあった。
「……今,聞くな」
それを肯定とみなして,そうすれば不思議とあまりの充足感に,中が東北を搾り取るように疼いた。つられるように東北が抜き差しを再開する。もう何も抑えが効かなかった。
「やっ,東北、も、やぁっ」
「イキそうか」
「うん,もう,イく」
「いいぞ。イけ,上越」
何その言われよう,と頭の片隅でだけ思った。けれど,近くにいるはずの東海道の達する悲鳴と,山陽の荒い吐息がひどく遠くに聞こえて,ああ,こんなにキちゃった,と思いながら,上越は声を抑えきれないまま,ひときわ奥を突かれた瞬間、背筋を撓らせた。
「ああああっ!」
「っ!」
上越の達する声と同時、東北も低くうめく。この声だけは自分のものだ。指を握り込みながら思った。
これが普段だったら,抜かないでだのなんだのくだらない寝言でも吐いてやるけれども,もう何も言う気にならなかった。そもそも生で中出しって,とか,もういろいろぐちゃぐちゃすぎてうんざりする。
だいたいそもそもこのネコミミは一体どこから出てきたんだろう。今更だけれども。ゆるゆると,指をほどく。上越の肩に頭を預けて息を吐いていた東北も,顔を上げてずるりと性器を抜いた。
「んっ……」
もう疲れて指一本たりとも動かしたくない。ソファの下を見下ろすと,東海道はすっかり気を失ってしまったらしく,目を開けない彼をいとおしそうに山陽が撫でていた。もう,そんなに大事なら,上越なんかにいたずらさせなければいいのに。
行為の後に気を失ったためしなどほとんどないつもりだけれど,今日はそうなってしまいそうだった。ひどく眠い。眠いというか気が遠くなりそうだ。だらり,とソファから手がたれて,その手を山陽が取った。
「まだなんかする気?」
「いや俺二回続けてイケるほど絶倫じゃないから」
「東海道はすごいね」
「ごちそーさん」
そう言いながら山陽が上越の指を舐める。東北を見上げるといつも通り何を考えているかわからない顔色に戻っている。もう今度こそ何もされないだろうと,山陽の舌の動きをぼんやり眺める。
「……なんのまね?」
「いや,東海道が出したの,返してもらおうと思って」
「ほんともう,君,信じらんない」
呆れて頭をもう一度ソファの座面に預ける。天井と上越の目線の間に東北が割り込んでくる。なぁに,と問おうとする上越の口をふさぐように,軽く一度だけキス。
「どしたの」
「羨ましそうだから」
「ばかじゃないの」
上越が呆れて言うのには構わず,東北がもう一度キスを落としてくる。山陽の,幸せ者だね,という声を聞き流しながら,上越も意識を手放した。
zeqのカワセミさんと一晩で書き上げたリレーSSです。読み返せば読み返すほど一体これ誰が書いたのと言うひどい……エロです。何でネコミミ。経緯はメッセログを読み返せばあるんですが怖くて読めない。仕方ない……。
20090815
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