たいてい自分の行為に他意はない。そのあたりは、生まれがそれほど古くない埼京と自分に、大きな差はないのだ。あとはせいぜい振る舞いの差、それが歴然と横たわっているがばっかりに、彼が幼いという扱いを受けるのだと思う。
だって、こうして自分の前で、艶めいた声を上げて啼いている彼は、どう見てもこどもではない。こどもだったとしても、こんなたちの悪いこどもは、きっとこどもとして扱われないに決まっている。
(ああ、入れ込んでる)
彼が息を荒げるたびにふわふわとしている金髪が枕を叩いて、心地いい音がした。欲しいと思ったのはりんかいで、体をつなげるように誘導したのもりんかいのほうだという身に覚えがあるから、埼京を組み敷いていることには些かの罪悪感がある。
もちろん、その罪悪感がとても、心地良いのだけれども。
「りんかい」
手を伸ばされて我に返った。自分を呼ぶ声はとてもか細く、しかし紛れもなく自分を特定してくる響きを持っていた。他意もなく求められて、他意もなく答える。繰り返しているのは互いにたったこれだけの営みであり、なんの障壁もない。むしろ、障壁なんてものを感じられない自分が、若すぎるのだと思う。
「どうしたの」
答えながらも腰を使うのを止めない。
そうしなければ埼京がまともな口をきけないことは分かっているのに、りんかいは彼の上げる細い悲鳴を聞いていたくて腰を止めてやることが出来ない。ああ、もう、最低だ。彼の話を聞きたいのに、彼がいたいけで止められない。
「ね、もう、駄目」
埼京が強請るような言葉を口にするのは割と早くからで、甘えるような口調が彼の癖だと分かっているから、簡単に折れるのはどうかといつも迷ってしまう。けれどもその手が、丸みを帯びるように切りそろえた爪が、りんかいの首の後ろにぐっと力を込めて、それで。
行為の激しさと裏腹に、キスを求めている。
彼の爪をラウンドに整えたのも自分だし、快楽をたたき込んでりんかいを求めてしまうような体にしてやったのも自分だった。けれども、キスのことは教えていない。
体が繋がればきっと満足できると思っていたりんかいは、キスのやりかたは通り一遍にしか教えていないつもりだった。それでも埼京はキスが好きで、どうにかなってしまいそうなときに必ず強請る。
駄目、と啼きながら。
その力に答えてやるように彼の顔の両脇に手をついてキスを送る。はじめは触れて、はじめからエサを求めるひな鳥のように開いた口には控えめに舌を送り込む。物足りなさそうに埼京が自分から舌を絡めてくるので、つられて下の繋がっている部分もそうやって彼に煽られているような錯覚をして、りんかいは思わず腰を打ち付けた。
ぎゅう、と首に回した手がまるで掴むような力で首を捉えてくる。ああ、温度を分け合うのはひどく気持ちいい。与えられる快感に喘ぎながら舌を絡めてくる埼京と同じように、りんかいもなんだか快感の余りに脳天を根こそぎ持って行かれるような勘違いをするのだ。
「ね、りんかい……」
息継ぎの隙間に、舌を見せたまま埼京は強請るのを止めない。その赤い内臓を染めたのが自分だとわかるとき、態度を押し殺せるだけで実はまだ幼いりんかいは、ぐっとこみ上げる性欲だか愛情だか分からない衝動をどうにか笑って誤魔化すことすら出来ない。
「どうしたの、埼京」
「もう駄目、溶けちゃう」
「いいよ、君となら」
欲しくて、欲しくてたまらないものがこの腕の中にいる。絶頂のときにりんかいを求めるような、そんな存在がこの腕の中にいる。それでいて、りんかいはまだ飽かず彼を求める自分のどこかを知っている。
その感情に名前をつけることができない。
だってまだ、ほんとうはりんかいも幼い。
「う、あ、ああ」
キスをしていたのに、無理矢理頭を振り払うように左右に絶頂の甘い声を撒き散らして、埼京が達する。りんかいもその彼の絶頂をさらに追い上げるように、浮き上がった喉仏をじゅうと吸い上げて、締まった中で自分の欲望をぶちまける。
自分の与える快楽だけで周りに何も見えなくなる埼京。
他意はない。
ただ彼に、自分だけを見ていて欲しいという、そんな我が侭がそこにあるだけ。
やまもおちもいみもない。
20110205
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