油彩を塗り込めた鈍色の空を、超特急となった自分が走る。近づいては離れる線路、細かく刻まれた駅名すら読み取れない。黄金色に実る稲穂、玩具のような踏切の遮断棒は上がったまま。一介の特急にすぎなかった頃と美しい情景は変わらず、ただ自分に矜持を譲り渡した弟を、時に恐ろしく思うことがある。
(青鉄東海道兄弟)

衝動は身体の中で一回転した。目を瞑れば僅かに衝動を抑え切れる気がしたのに、不安そうに自分を呼ぶ声と、薄く開いた目の中に飛び込んできそうな、黒シャツの胸元に押しつけられた金髪が全て振り切らせる。本気にはなりたくなかった、みっともないところは、感覚が幼いはずの彼には見せたくなかった。
(りん埼)

皆が好きに打ったクラッカーの紙テープが頭の上で絡まって、南北は、前が見えないよ、と文句を言った。ただ、自分の声も笑っていたし、皆も笑った。大きな手がカラフルなテープを持ち上げる。ほら、呆れたような声が、モノクロ映画のように落ちてくる。ぴたりと動けなくなる。まだ大人になりきれない。
(なんぼくさん開業おめでとうございますTN)

西洋の盆飾りに盛り上がる埼京と京葉を見る。京浜東北は、鮮やかな橙の飾りより、同じならば分かり易いイルミネーションと肌を触れ合わせる口実となってくる寒さのあるクリスマスの方が好きだと思った。手渡された甘い飴を奥歯でかみ砕く。彼を呼ぶ声を知らない自分は、彼らの無邪気さをただ嫉妬する。
(ネズミ海にいきたかったんです)

昼間だと眩い笑顔を直視できなくて、日が暮れるのを待つ。二人だと待つのは何時も千代田だ。解り易い立場みたいで、惨めで目を伏せる。なんか落ち込んでんの、という声に目を開けると、そんな勝手はお仕置きだね、と彼が勝手を言う。千代田に感情の雨を降らせて、傘なんてとっくに見当たらなくなった。
(「夜の高架下」「お仕置きをする」「傘」でじょーちよ)

彩り豊かなタイルに色めく照明が、ラブホテルの浴室に相応しい。玩具の手錠で手摺に繋がれ、お預け、言いながらあどけない笑顔の京葉がシャツから伸びる太股を擦りつけるなんて、武蔵野はもう直視できない。「どうした」「最近すれ違うばっかりなんだもん」行為と言葉のアンバランスがとても愛おしい。
(「昼の浴室」「すれ違う」「手錠」でむさけよ)

南北は落ち着かない顔をして、地下にいることを嫌がった。いつにもまして照明の落とされた東西の眺めでは余計不安を覚えるだろうに、東西も逃げ込んでくる南北を追い返せない。全く信じないだろうが、東西は思うのだ。彼にとっての手本になれるなら、どんなリスクを負っても、足を止めないでいられる。
(0311以降はじめて落ち着いてTに乗ったとき第2段。ほんとにかっこよかったんだって!)

暗い東陽町を見る度に気持ちも落ちる。負うリスクと動くメリットを天秤にかければ、大事に行きあった恐怖を南北は忘れられない。大丈夫だ、と東西が南北の頭を一つ打った。この国は強いんだぞ、東西が言えば05系の前には日の光が開ける。ああ、本当に、彼が言うから南北は信じる。自分たちの意味を。
(0311以降はじめて落ち着いてTに乗ったとき第1段。今までで一番なんぼくを上手く書けた気がする)

キャラクターの耳なら見慣れているのに、性的な遊びのための玩具をつけた京葉を見るとたまらない。しかも、本人が普段のあの耳と区別していないのがまずい。差し向けたのはおおかた宇都宮だろうが、武蔵野、と普段の声で呼ぶ赤毛に黒耳の猫は、自分がどれだけ甘いのか、もう少し自覚を持った方がいい。
(武蔵野京葉、にゃんにゃんの日)

赤茶けた髪を強い風になびかせるたび、その傷んだような色味に逆らうような滑らかな光り方をするのがとても好きで。だから京葉は晴れた空の下で笑っているのがいい、あわよくば、武蔵野、と呼びかけて、狸寝入りの俺に近寄って首を傾げてくれるのがいい。きらきら、眩しいくらいが、彼にはよく似合う。
(武蔵野京葉)

彼の構造は大抵シンプルだ。階段を上がって、高架があって、それだけ。何故それに憧れるかと言えば、唯一の共通点、都でわっかを描くこと。もっと自由に考えろ、低い声で彼が言う。百年も生きて、初めて共通点があることで喜ぶ相手ができた。そう言ってくれる彼の喜びを、若い自分は未だ分け合えない。
(やまえど)

夕焼け雲の色が綺麗、と見上げて彼は呟く。赤、紫、どの色を取ったって、言い表しきれないその色は、僕の世界にないんだ、と言って大きな目を細めた。彼が望んで潜ったわけでも、自分が望んで彼がそこにいるのでもない、仕方のないことを、それでも自分は勝手に惜しむ。彼は、良い迷惑だよ、と笑った。
(TN。南砂町以東、案外好きです)

振り払う前髪の奥に何の傷もないのを確かめて、不意に安堵した。たとえ最も近しい発着地点を持つ異なる私鉄である彼でも、傷のある様など見たくはない。何かついているか、と聞かれ、不愉快な目鼻が、と答える。色つきの目の奥の真実の色など知らなくて良い。彼のせいで感情を揺らすのなど、耐え難い。
(西池東上? この組み合わせ、かけざんっていうか、たしざんっていうか、わりざん)

色あせた髪は潮風に当たってそうなったと知っている。うかつに触れると毛先はぱきりと折れるから彼は嫌そうな顔をする。だからそっと頭ごとくるむように抱きかかえると彼はうっとりとして目を閉じた。君は僕の喜ぶことをなんだって知ってるんだねぇ、と嬉しそうに呟く声は魔法の国の、姫なのだろうか。
(武蔵野京葉。武蔵野がかっこよすぎて直視できない腹立たしさ)

冷えた体を温める腕を求めたくない。自分が彼を愛することができても、彼からの施しを望んではいけない。わかっているのに、細工の仕事に慣れた無骨なあの手が、血を吸う自分の牙を小さく指で叩く。血よりも欲しい熱を求めれば、彼の温度を奪ってしまうと知りながら、上越はその指先を小さく齧るのだ。
(吸血鬼はやとき。これを見るとやっぱり書きたくなる……)

僕より外の環っかってどうなってるの、と明るい声が尋ねてくる。地下なので外の世界は解りかねますね、と正直に答えると、人形は首を傾げた。知りたいですか、と問えば本体の首がこくりと上下する。では今度、お仕事交代しますかと尋ねると、都営の怠慢だ!と喚き立てる人形を余所に、彼は少し笑った。
(やまえど! 都営さんの路線図参照)

粟立つ体を御しきれない。「オレのこと、好きでしょ?」問いかける目にいつものふざけた色は残っているのに、何故か逃げ場は無い。「なぁ、京葉」その声で呼ぶな、いつもの調子で答えられない問いかけを投げないで。「なぁ」畳みかける声に観念して目を瞑ってしまう。ふ、と笑う音、唇には熱と湿り気。
(武蔵野京葉。いつも武蔵野を性的に書きすぎる)

存在さえ矛盾と捉え逃げ場は見失った。作られた運命から消滅も逃避もできない存在に絶対的な光を与える彼のような存在は、生憎僕は持ち合わせていない、と彼が歪に笑った。不快に空気を裂く音を立てて空を飛ぶ機械が鉄のレールに降りた瞬間を思い出す。何かの代わりになるならと、黒髪を撫でてやった。
(気持ちは陽上。陽→←←←上?)

我慢を知らない奔放な性格ならば、何故黙るだろうと東西は理解に苦しむ。それでも彼の前に立てば、放っておいて、と言う声と共に腕が伸びてきてシャツの裾を捕まれた。「何が嫌なんだ?」「何も嫌じゃない」「じゃあ戻ろう、探した」言うと南北は、馬鹿東西、と罵って、勝手に立ち上がった。心配損だ。
(TNT、Nの誕生日に)

彼を信用した事などない。言い聞かせて嗚咽と共にこみ上げる吐き気を押し殺す。人工的な色に染まる金を引きちぎってやれとでも?何かを慰めるような手つきだけでも信じろとでも?両極端のどちらもが同じくらい魅力的で身が裂けそうな思いをする。せめてあの金の目を、毎日見ずに済めばいいのにと思う。
(西池東上、自分的プチフィーバー)

聡過ぎて先回りする相手は好きになれない。言うと宇都宮は、僕も君のこと嫌い、と残念さの欠片もない顔で笑う。じゃあ鈍いのが好きかと聞くと首を横に振り、僕は君より趣味が悪いと笑う。その宇都宮が視線を送っただけで、高崎は、どうした、とか宇都宮に聞いていて。ほんと、御馳走様だよね、東海道。
(じゅにけ+うったか、けーくんとうっさんの仲が悪いのに萌えた)

「京浜東北、それ」「ん」宇都宮の手が伸びて、京浜東北の読んでいた本を奪っていく。手が空いたので机上の同じような装丁の本を手に取る。「デザート作ったら東海道驚くかな」「彼舌肥えてるんでしょ、大丈夫?」「僕が作ったものならたぶん大丈夫」、笑う二人の手元には「作ってあげたい彼ごはん」。
(1999ツイートじゅにけ+うったか、ちゃんとSSに起こしたい)

このクロワッサンが果たしてさほど美味いかと言われるとりんかいは何とも言えない。だがこのクロワッサンをとても嬉しそうに頬張る彼ならば美味そうだと思う。結局りんかいはあの金髪に弱いのだ。その笑顔のためなら、店員に手渡されたクロワッサンをぶら下げる自分の違和感など、どうでもいいくらい。
(1998ツイートりん埼、新木場のチョコクロ)

不意にホームを駆け抜けた冷たい風がスカートと長い髪を攫うものだから、季節の変化を不意に知覚する。風が冷たくて塩分を直接に食らうこの季節は手荒れがひどくなってたまらない。ここはひとつ、地下を担当するあの男に丁重な手つきでハンドクリームを塗り込ませるべきか、思いつきのまま携帯を開く。
(ゆり→りんかい、TXのホームが寒かったとき)

待たされること自体は平気だが、相手が罪悪感を持たないことがひどく腹立たしい。空を仰ぐ。雨はそこまで問題があるわけでもないから、この程度では仕事をサボる理由にもならない。ただ待たされているだけだ、或いはこれは待たされることが苦痛なのだろうか。いや、やはり相手が悪い、と一人で頷いた。
(武蔵野京葉、自分も人を待ってたとき)